紙に赤いものが付いた。便器の水が赤く染まっていた。そのとき多くの人が最初に思うのは「痔だろう」ということです。実際、その推測は多くの場合当たっています。日本人の成人の三人に一人が痔を持っているといわれ、肛門の病気のなかでいぼ痔(痔核)は最も多いものです。

ただ、この「痔だろう」という自己判断には二つの落とし穴があります。ひとつは、痔だと思って何年も放置した結果、本当は手術を勧められる段階まで進んでいたというもの。もうひとつは、痔ではないものを痔だと思い込んでしまうものです。

この記事では、いぼ痔を「病名の解説」としてではなく、いま自分がどの段階にいて、次に何をすればいいのかという形で整理します。特に40〜50代の男性は、長時間の座位・飲酒・内臓脂肪という三つの条件がそろいやすく、痔ができる側の生活をしています。

先に一点だけ——鮮血だから痔、とは言い切れません 「真っ赤な血=痔、黒い血=大腸の病気」という説明をよく見かけますが、これは目安であって判定基準ではありません。直腸やS状結腸(肛門に近い側の大腸)の病変でも、鮮やかな赤い血が出ます。とくに次の三つのどれかに当てはまる場合は、痔の治療と並行して大腸の検査を受けてください。
① 40歳以上で、これまで痔と言われたことがない
② 便が細くなった・便通のパターンが数週間続けて変わった
③ 体重が落ちてきた、あるいは血縁者に大腸の病気がある
いぼ痔と大腸の病変は同時に存在しても不思議ではなく、実際によくあります。「痔があること」は「大腸に何もないこと」の証明にはなりません。詳しくは大腸ポリープと言われたら|がんになるものとならないものの違いをご覧ください。

いぼ痔とは|肛門の「クッション」が腫れた状態

「痔」は病名ではなく、3種類の総称です

まず言葉の整理からです。「痔」というのは特定の病気の名前ではなく、肛門まわりに起きる代表的な三つのトラブルをまとめた呼び方です。この三つは原因も症状も治し方も違うので、最初に自分がどれなのかを分けておく必要があります。

種類 正式名称 いちばんの特徴
いぼ痔 痔核(じかく) 出血する。痛みは「あるとき」と「ないとき」がはっきり分かれる。肛門の病気で最多
切れ痔 裂肛(れっこう) 排便のときに鋭く痛む。出血は紙に付く程度の少量が多い
痔ろう 痔瘻(じろう) 肛門のわきが腫れて熱を持ち、膿が出る。発熱することもある

この記事が扱うのは一番上のいぼ痔(痔核)です。三つのなかで最も多く、そして「出血するのに痛くない」という、いちばん放置されやすい性質を持っています。

もともと誰にでもある組織が、腫れたものです

いぼ痔は「できもの」や「腫瘍」ではありません。肛門の内側には、もともと血管が網目状に集まったやわらかい組織があります。これは異常なものではなく、全員に生まれつき備わっているもので、便やガスが漏れないように隙間を埋めるクッションの役割を果たしています。

ここに繰り返し圧力がかかると、血管がうっ血して膨らみ、支えている組織がゆるみます。膨らんだクッションが便に押されてすれると出血し、さらにゆるむと排便のときに肛門の外へ出てくる。これがいぼ痔です。

「悪いものができた」わけではない、という理解が大事です いぼ痔は正常な組織が腫れた状態なので、がんに変化することはありません。ここを誤解して受診を先延ばしにする人と、逆に怖くなりすぎて調べ続ける人の両方がいます。落ち着いて段階を見極めれば、選べる手はいくつもあります。

内痔核と外痔核——痛みの有無を分けている「境界線」

いぼ痔は、できる場所によって二つに分かれます。分けているのは歯状線(しじょうせん)という、肛門の内側にあるギザギザした境界線です。この線より奥は腸の粘膜で、痛みを感じる神経が通っていません。線より手前は皮膚で、痛みの神経があります。

内痔核(ないじかく) 外痔核(がいじかく)
できる場所 歯状線より内側(粘膜側) 歯状線より外側(皮膚側)
痛み ほとんどない ある。腫れると強く痛む
出血 多い。ポタポタ落ちることもある 少ない
気づき方 出血、または「何か出てきた」感触 触ると硬いしこりがある・座ると痛い

ここが重要です。出血しているのに痛くないのは、異常ではなく内痔核の典型的な姿です。「痛くないから軽い」と考えて何年も放置され、進んでから受診されるケースが非常に多いのはこのためです。痛みは、いぼ痔の重症度をまったく反映しません。

【段階判定】自分はI度〜IV度のどこにいるか

内痔核には、世界共通で使われている4段階の分類(ゴリガー分類)があります。医師はこの段階を見て、薬で様子を見るのか、注射なのか、手術なのかを判断します。判定に使うのは「脱出するか」「戻るか」の二点だけなので、実は自分でもおおよそ当てはめられます。

段階 日常の言葉でいうと 一般的な対応
I度 出血はあるが、何かが出てくる感じはまったくない 生活習慣の見直しと薬が中心
II度 いきんだときに出てくるが、力を抜くとひとりでに戻る 生活習慣の見直しと薬が中心
III度 出てきたものが自然には戻らず、指で押すと戻る 注射や手術を含めた相談が現実的になる
IV度 押しても戻らない。常に外に出ている 手術が検討されることが多い

II度とIII度の間に、いちばん大きな線がある

この表で覚えていただきたいのは、「自分で戻す作業をしているかどうか」が分かれ目だということです。指で押し込む習慣がついている人は、自分では「うまく付き合えている」と感じていることが多いのですが、医学的にはすでにIII度です。ここから先は生活習慣の改善だけで元に戻ることはほとんどなく、治療の選択肢を知っておいたほうがいい段階に入っています。

逆に、I度・II度であれば、この記事の後半で挙げる生活の見直しだけで出血が止まる人が相当数います。段階を知ることの実益は、「まだ引き返せるのか、もう相談したほうがいいのか」がはっきりすることにあります。

判定するときのコツ 排便の直後、拭くときに指先で肛門のふちに触れてみてください。何も触れなければI度の可能性が高く、やわらかい膨らみに触れて数分後には消えているならII度です。触れたものが便座から立ち上がっても消えず、押し戻す必要があるならIII度。鏡を使う必要はありませんし、無理に奥を探る必要もありません。
自宅のソファに腕を組んで座り、これからどうするかを考えている40代後半の日本人男性

III度の方へ——押し戻すときの、正しいやり方

III度と判定された方の多くは、すでに毎日それを自己流で行っています。ここは意外と説明されないところなので、押さえておきたい点を挙げます。

  • 力任せに押さない。入浴後や座浴のあとなど、温まって腫れがやわらいでいるときのほうが、はるかに少ない力で戻ります
  • 指を清潔にし、乾いた指で押さない。石けんで洗い、ワセリンや処方の軟膏を少量つけて滑りをよくしてから、指の腹でゆっくり押し込みます。爪を立てないよう、指の先ではなく腹を使ってください
  • 横向きに寝た姿勢のほうが戻しやすい。立ったままより、体を横にして膝を軽く曲げたほうが、重力とお腹の圧が抜けます
  • 戻したあとすぐ動き回らない。数分そのまま横になっていると、再び出てきにくくなります
押し戻せなくなったら、その日のうちに受診してください いつもは戻るのに今日は戻らない、痛みが急に強くなった、腫れが大きくなって触るとひどく痛む——これは嵌頓(かんとん)といって、締めつけられて血流が滞りかけているサインです。無理に押し込もうとすると悪化させます。冷やしすぎず、横になって、その日のうちに肛門科を受診してください。

「やわらかい膨らみ」ではなく「硬いしこり」に触れた場合

触れたものがビー玉のように硬く、押すと強く痛む場合は、内痔核の脱出ではなく血栓性外痔核のことがあります。これは肛門の外側の血管のなかで血が固まってしまった状態で、長時間の運転、飲みすぎた翌日、下痢が続いたあとなどに、ある日突然できます。

痛みは強いのですが、多くは数日から2週間ほどで血の塊が吸収され、徐々に小さくなっていきます。痛みが強い時期は無理に触らず、座浴で温め、痛み止めを使いながら経過をみることが多いものです。ただし痛みで座っていられない、歩けないという場合は、その場で処置を受けたほうが早く楽になることがあるので受診してください。

その出血、本当に痔ですか

痔の出血には、わかりやすい型があります

いぼ痔の出血は、次のような出方をすることがほとんどです。

この型に当てはまらない出血——便に混ざっている、暗い赤色、腹痛を伴う、粘液が絡んでいる——だった方は、血便が出たとき、何を見て判断するかで色・混ざり方・痛み・随伴症状の4軸から原因を逆引きできます。

  • :鮮やかな赤。時間が経って黒ずんだ色ではない
  • 付き方:便の表面に付着するか、拭いた紙に付く。便に混ざり込んではいない
  • タイミング:排便のときだけ。終わればすぐ止まる
  • :紙に付く程度から、便器の水が赤く染まる程度まで幅がある

とくに「便に混ざっているか、付いているか」は、自分で見て判断できる数少ない手がかりです。痔の血は肛門の出口で出るので、すでに形になった便の外側に付きます。便全体が赤黒く染まっていたり、赤いものが便の内部まで練り込まれているように見えたりする場合は、もっと奥から出ている可能性が上がります。

いちばん多い見逃し方は「持病があること」

実際に問題になるのは、血の色や付き方を見誤ることではありません。すでに痔と診断されたことがある人が、新しく出た出血をすべて痔のせいにしてしまうことです。

「10年前から痔だから」という理由で出血を説明づけてしまうと、大腸側の変化が起きたときにそれが埋もれます。前述のとおり、痔と大腸の病変は同時に存在します。痔の持ち主であることは、大腸を調べなくてよい理由にはならない——これが、この章でいちばんお伝えしたいことです。健康診断の便潜血検査で陽性が出たときに「痔だから」と流してしまうのも同じ構造で、この判断の危うさは大腸ポリープの記事で詳しく扱っています。

どのくらいの量から、急いだほうがいいのか

「便器の水が赤い」という表現は人によって幅があり、判断の助けになりません。急ぐかどうかは、量そのものより体に出ている変化で決めてください。

状態 目安
紙に付く/便の表面に筋状に付く 数週間続くようなら、都合のよい日に受診
ポタポタ落ちる・水が薄く色づく 1〜2週間以内に受診。市販薬で様子を見るならここが上限
勢いよく出る・便器の水が濃く染まる日が続く 数日以内に受診
立ちくらみ・動悸・階段で息切れ・顔色が悪いと言われる その日のうちに受診。貧血が進んでいる可能性
出血が止まらない・意識が遠のく感じがある 救急外来へ

出血より困るのは、実はかゆみかもしれません

いぼ痔で受診される方の訴えで、出血と並んで多いのがかゆみです。脱出した粘膜から分泌液がしみ出して皮膚をふやかす、拭きすぎて皮膚のバリアが落ちる、という二つが重なって起こります。

やっかいなのは、掻くと一時的に楽になるが、掻いた刺激で皮膚がさらに荒れ、もっとかゆくなるという循環に入ることです。抜け出すための要点は三つあります。

  • 強くこすらない・洗いすぎない。石けんでゴシゴシ洗うと、皮膚を守っている脂まで落ちてかゆみが増します。ぬるま湯で流す程度で十分です
  • 乾かしてから服を着る。湿ったままだとふやけて悪化します。押さえるように水気を取ってください
  • かゆみが主体なら、局所麻酔成分を含む非ステロイドの薬が使いやすい。詳しくは市販薬の章で扱います

なお、かゆみが長く続く場合は肛門の皮膚そのものの病気が隠れていることもあるため、市販薬で2週間変わらなければ受診してください。

切れ痔との違いは「痛みのタイミング」でわかります

もうひとつよくある迷いが、いぼ痔と切れ痔の区別です。見分ける手がかりは痛みのタイミングにあります。切れ痔は排便のその瞬間に、紙で切ったような鋭い痛みが走り、その後もしばらくヒリヒリが残ります。出血は紙にうっすら付く程度が中心です。一方の内痔核は、出血していても排便時に鋭い痛みは出ません。硬い便を出したあとに毎回ピリッとした痛みがあるなら、そちらは切れ痔として別に考えたほうが対処が早くなります。切れ痔がなぜ繰り返すのか、排便のときに切らないための具体的な動作については切れ痔(裂肛)が治らない理由|「排便のたびに切れる」を断ち切る手順で詳しく扱っています。

40〜50代男性がいぼ痔になりやすい5つの理由

いぼ痔は「体質」で片づけられがちですが、実際には肛門のクッションにかかる圧力を上げる行動の積み重ねです。そして40〜50代男性の生活には、その行動がひととおりそろっています。

① 長時間の座位——重力と、うっ滞

座っている姿勢では、肛門まわりの静脈は心臓よりずっと低い位置にあり、血液が戻りにくくなります。立って歩けばふくらはぎの筋肉が血液を押し戻しますが、座りっぱなしではそのポンプが働きません。デスクワーク、長距離運転、長時間の会議——いずれも骨盤内をうっ血させます。

この「座りっぱなしによる骨盤内のうっ血」は、痔だけの問題ではありません。同じ条件は前立腺のトラブルにも関係することが知られており、前立腺炎で長時間の座位を避けるよう指導されるのも同じ理由です。前立腺の基礎とあわせて読むと、40代以降の「座る時間」が何に効いてくるのかが立体的に見えてきます。

② 便秘と、いきんでいる時間の長さ

硬い便を出そうといきむと、腹圧が一気に上がってクッションが押し出されます。問題は力の強さよりも時間で、トイレでスマートフォンを見ながら10分、15分と座り続ける習慣は、その間ずっと肛門に圧力をかけ続けているのと同じです。

なお「出し切れていない気がして、つい長く座ってしまう」という方は少なくありません。その感覚の正体は便が腸壁に残っていることではなく、多くはいきみ方と姿勢の問題です。座る時間を短くする具体的な手順は宿便は本当にあるのか|「出し切れていない感覚」の正体にまとめています。

逆に、下痢が続く場合も痔は悪化します。勢いのある便が繰り返し粘膜をこすり、炎症を起こすためです。過敏性腸症候群(IBS)で下痢と便秘を繰り返している方は、腸の状態そのものが痔の背景にあります。IBSの薬低FODMAP食で便の形が安定すると、痔の出血が自然に減ることは珍しくありません。

③ 飲酒——血管を広げる方向と、下痢にする方向の両方から

アルコールは血管を拡張させるので、うっ血した部分をさらに膨らませます。加えて、飲んだ翌日に便がゆるくなる人は、②の下痢による刺激も重なります。「飲んだ次の日に必ず出血する」という自覚がある方は、この二つが同時に起きています。

減らす目安については純アルコール量の考え方が実用的です。まったくやめる必要はなく、休肝日を挟むだけでも出血の頻度が変わる方がいます。禁酒したときに体で何が起きるかも参考になります。

④ 内臓脂肪と腹圧

お腹まわりに脂肪がつくと、腹腔内の圧が常時高い状態になります。この圧は下方向にもかかるため、肛門のクッションは日常的に押され続けることになります。

同じ機序は消化管の上のほうでも起きていて、腹圧の上昇は逆流性食道炎の最大の原因でもあります。胸やけと痔が同時期に出てきた方は、別々の病気が偶然重なったのではなく、内臓脂肪という一つの原因が上下に出ている可能性があります。対策は内臓脂肪を落とす方法歩いて内臓脂肪を減らすが具体的です。

⑤ 力むトレーニングと、重いものを持つ仕事

デッドリフトやスクワットで息を止めて踏ん張ると、瞬間的に腹圧が跳ね上がります。トレーニング自体は40代以降にこそ必要なものですが、いきむときに息を止めない——力を出す局面で息を吐く——という一点を変えるだけで、肛門にかかる圧はかなり下がります。血圧の急上昇を防ぐうえでも同じ意味があります。

フォームと呼吸については筋トレの基本、器具を使う場合はダンベルトレーニングを参考にしてください。すでに痔の症状が出ている時期は、自重トレーニングに切り替えて負荷を下げるのが現実的です。

街路樹のある歩道を、仕事の合間に歩いている40代後半の日本人男性

自分で減らせること|今日からできる6つ

いぼ痔は、圧力をかけ続けている限り良くなりません。逆にいえば、圧力を減らす行動には即効性があります。I度・II度であれば、次の6つのうち二つか三つを実行するだけで出血が止まる人がいます。

① トイレは3分で切り上げる

最も効果が大きく、最も守られていないのがこれです。便座に座っている時間そのものが肛門への圧力なので、出なければ一度立つ。スマートフォンを持ち込まない。この二つだけで、1日あたり肛門にかかっている時間が10分単位で変わります。

② いきみ方を変える——足台と前傾姿勢

洋式便座に浅く腰かけ、足元に高さ15〜20cmほどの台を置いて膝を股関節より高くし、上半身をやや前に倒すと、直腸と肛門の角度がまっすぐに近づき、少ない力で便が出ます。空き箱でも構いません。強くいきまなくて済むこと自体が治療になります。

③ 温める(座浴・シャワー)

うっ血が原因なので、温めて血流を戻すことは理にかなっています。40℃程度のお湯に5〜10分、湯船に浸かるかシャワーを当てるだけでも、痛みと腫れが和らぎます。逆に、温水洗浄便座を強い水圧で長時間当てるのは避けてください。粘膜を刺激し、皮膚のバリアを洗い流してかゆみを招きます。

④ 便を「柔らかく」する

目標は回数ではなく硬さです。水分をとること、そして食物繊維を水に溶けるタイプ(海藻・オクラ・大麦・果物)と溶けないタイプ(豆・きのこ・根菜)の両方からとることが要点になります。溶けないタイプだけを増やすと、かえって便が硬く大きくなって逆効果になることがあります。

糖質制限中の方は特に注意が必要です。主食を減らすと食物繊維が一緒に落ちるため、糖質制限の落とし穴で挙げているとおり便秘に傾きやすくなります。40代からのダイエットを進めるときは、繊維の量を落とさない設計にしてください。

⑤ 30分に1回立つ

座り続けないことが目的なので、立つ時間は10秒でも構いません。コピー機まで歩く、水を汲みに行く、といった動作で十分です。会議が長い日は、意識的に姿勢を変えるだけでも違います。

円座クッションは買っていいのか 「痔には円座(ドーナツ型)」というイメージが広く定着していますが、真ん中に穴が空いた形は、穴のふちの部分に体重が集中して肛門まわりの組織が引っ張られるため、かえって負担になることがあります。買うなら、穴が空いていない、体圧を面で分散するタイプ(低反発やジェル素材の座面)のほうが無難です。
ただしクッションは「座っていられる時間を延ばす道具」でもあります。それで立ち上がる回数が減ってしまえば本末転倒なので、あくまで⑤とセットで考えてください。手術後など、医療機関から円座を指示された場合はその指示に従ってください。

⑥ アルコールと、刺激の強い食べ物

唐辛子などの香辛料は、消化されずに便に混じって肛門を直接刺激します。症状が出ている時期だけでも量を控えると、痛みとかゆみが軽くなります。飲酒は前述のとおりです。

平日1日に落とし込むと、こうなります

時間帯 やること
起床後 コップ1杯の水。朝食に海藻か果物を足す
朝のトイレ スマホは持ち込まない。足台を使う。3分で切り上げる
勤務中 30分に1回立つ(10秒でよい)
帰宅後 湯船に5〜10分。飲む日は量を決めておく
入浴後 症状がある時期は薬を使う(下の章)
全部やろうとしなくて構いません ①と②——トイレの時間と足台——の二つだけで、肛門にかかる圧力はかなり減ります。他の4つは、続けられそうなものから足していけば十分です。

市販薬で様子を見てよい範囲と、その期限

ドラッグストアの棚には多くの痔の薬が並んでいますが、迷うのは商品名が違うからではなく、成分の分類と剤形の使い分けが書かれていないからです。ここを整理しておくと、棚の前で決められるようになります。

成分は、大きく3つに分かれます

分類 入っている代表的な成分 向いている状態
ステロイド配合 ヒドロコルチゾン酢酸エステル、プレドニゾロン酢酸エステルなど 腫れと炎症が強いとき。効き目は出やすいが漫然と続けない
非ステロイド 局所麻酔成分(リドカインなど)、殺菌成分、組織修復成分 痛み・かゆみが中心のとき。長めに使いやすい
内服(飲み薬) 生薬由来のもの(乙字湯など)、静脈の流れに働くとされる成分 塗り薬と併用して体の内側から整えたいとき

剤形は「内か外か」で選びます

ここを間違えている方がとても多いところです。

  • 軟膏:外痔核や、肛門のふちの炎症向け。外側に塗る
  • 注入軟膏:先端を肛門内に入れて注入するタイプ。内痔核向け。外側にも塗れる兼用タイプが多い
  • 坐薬:奥まで届かせたいとき。内痔核向け

出血が主体で痛みがない(=内痔核の可能性が高い)のに、外側に塗る軟膏だけを使っていると効き方が鈍くなります。「痛くないのに出血する」なら注入軟膏か坐薬、と覚えておくと選びやすくなります。

期限は「2週間」で区切ってください

市販薬は症状をやわらげるものであって、ゆるんだ組織を元に戻すものではありません。2週間使って出血や腫れが変わらないなら、それは薬で解決する段階ではないというサインです。とくに次に当てはまる場合は、期限を待たずに受診してください。

市販薬で様子を見てはいけない場合 ・便器の水が真っ赤になるほどの出血が続く、または立ちくらみ・動悸がある
・押しても戻らないものが出ている(IV度)
・激しく痛んで座れない・歩けない
・肛門のわきが腫れて熱を持ち、発熱している(痔ろうの可能性)
・便が細くなった、便通のパターンが変わった状態が数週間続いている
ドラッグストアの棚の前で、手に取った箱の表示を読んでいる40代後半の日本人男性

受診——何科で、実際に何をされるのか

いぼ痔で受診をためらう理由は、痛みでも費用でもなく、ほぼ一つに集約されます。「何をされるのかわからない」ことです。ここを具体的にしておきます。

何科にかかるか

第一選択は肛門科(肛門外科)です。近くにない場合は消化器外科、あるいは「大腸肛門病専門医」が在籍しているかどうかを医療機関のサイトで確認するとよいでしょう。内科・皮膚科でも薬の処方は受けられますが、段階の判定や処置まで含めると専門の科のほうが話が早く進みます。

診察で実際に何をするのか

多くの医療機関では、次のような流れです。全体で5〜10分程度、痛みを伴う処置は通常ありません。

順番 内容 実際のところ
1 問診 出血の頻度、脱出の有無、便の状態を聞かれる。答えを用意していくと早い
2 体位をとる 横向きに寝て、膝を軽く抱える姿勢。腰から下にはタオルや専用の布がかけられ、見えるのは処置する部分だけ
3 視診・触診 ゼリーを塗った指で内側を確認する。数十秒。圧迫される感じはあるが、鋭い痛みは通常ない
4 肛門鏡 細い筒状の器具を入れて内側を見る。ゼリーを使うので滑りはよい。ここも数十秒
5 説明 何度か、どう対処するかを伝えられる。薬が出て終わることが多い

大腸の検査(大腸カメラ)は、その場で全員に行うものではありません。前述の三条件に当てはまる場合や、出血の性状が痔らしくない場合に、日を改めて予約するのが一般的です。大腸カメラそのものの流れと鎮静剤については大腸ポリープの記事で詳しく書いています。

費用の目安

3割負担で、初診料と処置・薬を含めておおむね2,000〜4,000円程度に収まることが多いところです。大腸カメラを別日に受ける場合は、組織を採らなければ5,000〜7,000円前後、採った場合はそれ以上になります。

恥ずかしさについて、一つだけ

肛門科の医師は、その部位を1日に何十人と診ています。診察する側にとっては、皮膚科で背中を見せるのと同じ日常業務です。また肛門の病気は男女差の小さい疾患で、男性だけの悩みでも、特別な生活をした結果でもありません。3分で終わる診察を先延ばしにして、押し込む習慣を5年続けるほうが、結果として失うものは大きくなります。

治療の選択肢|手術以外に何があるか

「受診=手術」と思われがちですが、実際に手術になるのは進んだ段階の一部です。段階に応じて、次のような選択肢があります。

保存療法(I度・II度が中心)

生活習慣の見直しと、処方の薬(軟膏・坐薬・内服)で症状を抑えます。ここまでで落ち着く方が多く、実際にはこの段階の人が最も多数です。

ALTA療法(ジオン注射)——切らない方法

内痔核に薬剤を注射して硬く縮ませ、出血と脱出を抑える方法です。切らないため痛みが少なく、日帰りまたは短期入院で行われることが多いのが特徴です。内痔核が対象なので、外痔核が主体の場合や、皮膚側にまたがっている場合は適応が変わります。効果の持続や再発の可能性については個人差があるため、医師の説明を受けたうえで判断してください。

結紮切除術(けっさつせつじょじゅつ)

痔核を根元で処理して切除する、いわば標準的な手術です。III度・IV度や、注射が適さない場合に選択されます。医療機関によって日帰りから1週間程度の入院まで幅があり、デスクワークであれば1〜2週間程度で復帰される方が多いとされています。仕事の調整が必要になるので、繁忙期を避けて計画するのが現実的です。

3つの選択肢を、仕事の都合で比べると

実際に迷うのは「どれが効くか」よりも「何日休むことになるか」です。医療機関や状態によって幅がありますが、比較の目安としてまとめます。

保存療法 ALTA療法(注射) 結紮切除術
主な対象 I〜II度 II〜III度の内痔核 III〜IV度、外痔核を伴うもの
入院 なし 日帰り〜数日 日帰り〜1週間程度
仕事復帰の目安 休みは不要 翌日〜数日 1〜2週間(デスクワークの場合)
費用の目安(3割負担) 数千円/回 2〜3万円台になることが多い 3〜6万円台になることが多い(入院日数による)
術後の痛み 少ないとされる 排便時にしばらく出ることがある
弱点 段階は戻らない 外痔核には使いにくい・再発の可能性 休みの調整が必要

費用は医療機関・術式・入院日数で変動し、高額療養費制度の対象になる場合もあります。加入している医療保険から手術給付金が出ることもあるので、手術が決まったら保険証券を一度確認しておくと、あとで請求漏れになりません。正確な金額は受診先で必ず確認してください。

「痔の手術は激痛」というイメージについて その印象は、麻酔と術式が今ほど整理されていなかった時代の話が語り継がれている面があります。現在は術後の痛みを抑える方法が組み合わされており、方法の選択肢自体も増えました。ただし術後しばらく排便時に痛みが出ることはあるため、便を柔らかく保つ薬を併用するのが一般的です。痛みへの不安は、遠慮せず診察のときに率直に伝えてください。方法の選び方が変わることがあります。

放置するとどうなるか

嵌頓痔核(かんとんじかく)——ある日突然、動けなくなる

III度・IV度を放置していると、脱出した痔核が肛門の括約筋に締めつけられて戻らなくなり、血流が滞ってひどく腫れることがあります。これを嵌頓痔核といい、激しい痛みで座ることも歩くこともできなくなることがあります。痛くないことを理由に何年も放置してきた方が、出張先や休日に突然この状態になって救急を受診する、という経過は決して珍しくありません。

気づかないうちに進む貧血

もう一つは、少量の出血が長期間続くことによる鉄欠乏性貧血です。1回の量が少なくても、毎日または毎週続けば、体内の鉄は確実に減っていきます。階段で息が切れる、疲れが取れない、顔色が悪いと言われる——こうした変化を「歳のせい」と受け取ってしまい、原因が痔の出血だったと後からわかることがあります。

健康診断でヘモグロビンの低下を指摘された男性は、まず消化管からの出血を疑うのが原則です。鉄の補い方と、その前に出血源を止める必要性については鉄サプリの選び方で整理しています。また、原因不明の疲れが続く場合は慢性的な疲労の原因もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q いぼ痔は自然に治りますか

A.症状が落ち着くことと、組織が元に戻ることは別に考える必要があります。I度・II度であれば、圧力をかける行動をやめることで出血や腫れが治まり、日常生活で困らない状態になる方は多くいます。一方、いったんゆるんで脱出するようになった組織が、生活習慣だけで元の位置に戻ることはほとんどありません。「症状は自然に軽くなりうるが、段階は自然には戻らない」というのが実際に近い理解です。

Q 押すと戻るので、このまま様子を見てもいいですか

A.押し戻せている=III度です。ただちに手術が必要という意味ではありませんが、生活習慣の改善だけで元に戻る段階は過ぎています。一度受診して段階を確認し、選択肢(保存療法・注射・手術)と、それぞれで何が変わるのかを聞いておくことをおすすめします。知ったうえで様子を見るのと、知らずに放置するのは違います。

Q 痔があるのに、大腸カメラを受けたほうがいいのでしょうか

A.痔があることは、大腸に何もないことの証明にはなりません。両方が同時に存在することは実際によくあります。40歳以上でこれまで一度も大腸の検査を受けたことがない場合、便が細くなった・便通のパターンが数週間続けて変わった場合、体重が減ってきた場合、血縁者に大腸の病気がある場合は、痔の治療とは別に一度受けておく価値があります。判断は診察のうえで医師が行いますので、上記に当てはまることを診察時に自分から伝えてください。

Q 温水洗浄便座は使わないほうがいいですか

A.使うこと自体は問題ありません。避けたいのは「強い水圧で・長く・毎回」という使い方です。皮膚を守っている脂の膜まで洗い流してしまい、乾燥とかゆみを招きます。弱めの水圧で数秒、そのあとは強くこすらずに押さえるように拭く。この使い方であれば、紙で強くこするより肛門への負担は小さくなります。

Q 出血が止まったら、薬はやめていいですか

A.症状が治まれば塗り薬は中止して構いません。ただし、薬でおさまったのは炎症であって、痔核そのものが消えたわけではないという点は覚えておいてください。生活のほう(トイレの時間・座位・便の硬さ・飲酒)を戻してしまえば、同じことが繰り返されます。薬をやめるタイミングは、生活の見直しを続けるタイミングでもあります。ステロイド配合の薬を漫然と長期間使い続けることは避け、2週間を目安に見直してください。

Q 運動はしてもいいですか

A.むしろ推奨されます。歩くことは血流を戻し、腸の動きも整えるので、痔にとっては味方です。控えたほうがよいのは、息を止めて強く踏ん張る高重量のトレーニングと、長時間のサイクリング(サドルによる圧迫)です。症状が強い時期は自重トレーニングとウォーキングに切り替え、落ち着いてから戻していく形が現実的です。

まとめ:痔は「治す」より先に、「どの段階か」を知ることから

いぼ痔は、肛門にもともとあるクッションが圧力で腫れたものです。悪いものではありませんが、圧力をかけ続けている限り、段階は静かに進みます。そして痛みは重症度を教えてくれません。

  • 判定基準は2つだけ:出てくるか、戻るか。指で押し戻しているならIII度で、生活の見直しだけで戻る段階は過ぎています
  • 痛くないのは軽いからではない:内痔核には痛みの神経がありません。出血だけで痛くないのは、いぼ痔の典型です
  • 今日変えられるのは2つ:トイレを3分で切り上げること、足台を置くこと。ここだけで肛門への圧力は目に見えて減ります
  • 市販薬は2週間で区切る:変わらなければ薬で解決する段階ではありません。剤形は「痛くないのに出血する」なら注入軟膏か坐薬です
  • 痔があっても大腸は別:40歳以上・便が細い・便通が変わった・体重が減ったのいずれかがあれば、痔の治療と並行して大腸を調べてください

診察は5〜10分、多くは薬が出て終わります。押し込む習慣を何年も続けるより、一度3分の診察で段階を確かめるほうが、その後の選択肢はずっと多く残ります。