お腹の調子が悪い日と、悪くない日がある。けれど、その差がどこから来るのかがわからない。──40代・50代でお腹の不調を抱える男性から、いちばん多く聞く言葉です。ストレスのせいだと言われても、ストレスは毎日ある。天気のせいでもない。となると残るのは「食べたもの」ですが、その犯人が思っているような脂っこいものや辛いものではなく、玉ねぎ・小麦・りんご・牛乳といった「体に悪そうに見えないもの」だとしたら、自力で気づくのはほぼ不可能です。

低FODMAP(フォドマップ)食は、その見えない犯人を炙り出すための食事法です。オーストラリアのモナッシュ大学が体系化し、いまでは日本消化器病学会のガイドラインでも過敏性腸症候群(IBS)の食事療法として位置づけられています。ただ、日本語で読めるリストの多くは海外の食材が前提で、「じゃあ明日の昼、何を食べればいいのか」までは書かれていません。この記事では食品一覧・3ステップの進め方・外食での選び方の3つを、日本の食卓と40・50代男性の生活を前提にまとめます。

昼に定食を食べた日だけ、午後の会議がつらい

ある48歳の男性は、午後2時からの会議がずっと苦手でした。腹が張って、ときどき下る。会議室を出るタイミングを常に計算している。胃腸科で内視鏡も受けましたが「異常なし」。ストレス性でしょう、と言われて整腸剤を渡されました。

変化があったのは、食べたものと症状を2週間書き出してみたときです。悪い日には共通して玉ねぎ入りのメニューがありました。カレー、ハンバーグのソース、牛丼、ラーメンのスープ。逆に、焼き魚定食や刺身の日は比較的おだやかでした。本人は「野菜は体にいいものだと思っていた」と言います。

これは珍しい話ではありません。腸が敏感な人にとって問題になるのは、脂や辛さよりも「小腸で吸収されにくく、大腸で一気に発酵する糖」です。そしてその糖は、健康食の代表格である野菜・果物・乳製品・豆類・全粒穀物に多く含まれています。健康を意識して食生活を変えた人ほど、かえって症状が悪化する──低FODMAP食が注目される理由はここにあります。

この記事の前提 低FODMAP食は、過敏性腸症候群(IBS)と診断された方、あるいは検査で異常がないのにお腹の不調が続く方を主な対象とした食事法です。IBSそのものの全体像(4つのタイプ・受診の流れ・治療の考え方)は過敏性腸症候群(IBS)とは?40・50代男性のための完全ガイドにまとめています。まだ診断を受けていない方は、先にそちらをご覧ください。

低FODMAP食とは、腸で「発酵しやすい糖」を減らす食事法

FODMAPの5文字が指しているもの

FODMAPは、次の頭文字をつなげた言葉です。

頭文字 糖の種類 代表的な食品
Fermentable 発酵性の(=以下4つの総称)
Oligosaccharides オリゴ糖(フルクタン・ガラクトオリゴ糖) 小麦、玉ねぎ、にんにく、豆類
Disaccharides 二糖類(乳糖) 牛乳、ヨーグルト、生クリーム
Monosaccharides 単糖類(果糖) りんご、はちみつ、果糖ぶどう糖液糖
Polyols ポリオール(糖アルコール) もも、きのこ、シュガーレスガム

これらに共通するのは、小腸で吸収されにくいという性質です。吸収されなかった糖は2つの厄介ごとを起こします。ひとつは浸透圧で腸に水を引き込むこと(=下痢や軟便)。もうひとつは大腸の細菌のエサになって短時間で大量のガスを発生させること(=張り・おなら・キリキリした痛み)。

健康な腸なら、この程度のガスや水分は問題になりません。ところがIBSの人は腸の知覚が過敏になっているため、同じ量のガスでも痛みとして感じ取ってしまいます。だから低FODMAP食は「悪い食べ物を断つ」のではなく、過敏になっている腸への刺激を、いったん物理的に減らすという発想の食事法です。

「体にいい食べ物」ほど合わないことがある理由

健康診断で数値を指摘されて食生活を見直した人が、次のような変更をするのはよくあることです。

  • 白米を玄米や全粒粉パンに変えた
  • 朝はヨーグルトと果物にした
  • 野菜をたくさん摂ろうと、玉ねぎ入りのスープを毎日飲むようにした
  • 甘いものは砂糖ではなくはちみつにした
  • おやつをシュガーレスガムに置き換えた

ここに挙げた変更は、生活習慣病の予防という観点では理にかなっています。しかしFODMAPという物差しで見ると、5つすべてが高FODMAP方向への変更です。全粒粉はフルクタン、ヨーグルトは乳糖、玉ねぎはフルクタン、はちみつは果糖、シュガーレスガムはポリオール。「健康にいいことを始めたらお腹の調子が悪くなった」という一見あべこべな現象は、こうして起こります。

低FODMAP食は「一生続ける健康食」ではありません 高FODMAPに分類される食品の多くは、腸内細菌のエサになる有用な成分(プレバイオティクス)でもあります。長期にわたって全面的に避け続けることは、むしろ腸内環境にとって望ましくないと考えられています。低FODMAP食は数週間かけて犯人を特定するための検査であり、ゴールは「食べられるものを増やして元の食生活に戻す」ことです。この点は後述の「3ステップ」で詳しく説明します。

効果の目安と、効かない人もいるという事実

低FODMAP食については複数の臨床研究があり、IBS患者のおおよそ半数から7割程度で腹部症状の軽減が報告されています。日本消化器病学会の『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020──過敏性腸症候群(IBS)』でも、食事療法のひとつとして取り上げられています。

ただし裏を返せば、3割前後の人には目立った変化が出ないということでもあります。お腹の不調の原因はFODMAPだけではなく、ストレスや自律神経の影響、腸内細菌のバランス、睡眠不足、カフェイン・アルコール・脂質の量など複数の要素が絡んでいるからです。

ですから「低FODMAP食をやれば治る」と考えて始めると、うまくいかなかったときに落胆が大きくなります。3週間試して変化がなければ、犯人はFODMAPではなかったというだけ。それも立派な情報です。その場合は薬による対処や、ストレス側からのアプローチに切り替えるほうが早いことがあります。薬の選択肢は過敏性腸症候群の薬とは?市販薬で粘っていい人・すぐ病院に行くべき人の見分け方にまとめています。

【食品一覧】高FODMAPと低FODMAPをまとめて確認する

ここからが実務です。8つのカテゴリに分けて掲載します。まずは太字の「主食」と「野菜」だけ押さえれば、影響の大半はカバーできます。

一覧を読むときの2つの注意すべては「量」の問題です。低FODMAPとされる食品も、大量に食べれば高FODMAP相当になります。逆に高FODMAP食品も、ごく少量なら平気なことがあります。
分類は研究の進展で更新されます。ここに載せたのは執筆時点で広く用いられている分類です。判断に迷う食品が出てきたら、モナッシュ大学の公式アプリなど一次情報にあたるのが確実です。

① 穀類・主食

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
白米、玄米、もち米、米粉パン、ビーフン・フォー(米麺)、十割そば、オートミール(1食40g程度まで)、コーンフレーク(プレーン・少量)、グルテンフリーパスタ、じゃがいも、片栗粉 小麦製品全般(食パン、うどん、ラーメン、パスタ、そうめん、餃子の皮、お好み焼き、天ぷらの衣)、大麦、ライ麦、全粒粉パン、二八そば(つなぎの小麦量による)、シリアル(はちみつ・ドライフルーツ入り)

実務上の最重要ポイントは「白米は安全圏」ということです。日本人にとってこれは大きな救いで、主食を白米に寄せるだけで摂取量はかなり下がります。「玄米のほうが健康的だから」と切り替えていた方は、この期間だけ白米に戻してみてください。

② 野菜

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
にんじん、なす、トマト、きゅうり、ピーマン、パプリカ、ほうれん草、小松菜、かぼちゃ(少量)、大根、かぶ、レタス、チンゲン菜、ズッキーニ、たけのこ(少量)、青ねぎの緑色の部分、しょうが、もやし 玉ねぎ、にんにく、長ねぎの白い部分、にら、らっきょう、アスパラガス、カリフラワー、ブロッコリーの茎、ごぼう、さつまいも(量)、マッシュルーム・しいたけなどのきのこ類、セロリ、とうもろこし(量)、キャベツ(大量に食べた場合)

③ 果物

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
バナナ(熟しすぎていないもの1本まで)、いちご、ぶどう、みかん、オレンジ、レモン、キウイ、パイナップル、ブルーベリー(20粒程度まで)、メロン(マスクメロン系) りんご、なし、もも、すいか、さくらんぼ、マンゴー、柿、いちじく、アボカド(量)、ドライフルーツ全般、果汁100%ジュース

④ 肉・魚・卵・大豆製品

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
牛肉・豚肉・鶏肉(味付けしていないもの)、魚介類全般、刺身、卵、木綿豆腐、絹ごし豆腐(少量)、テンペ 大豆の水煮、枝豆、ひよこ豆、レンズ豆、あずき(あんこ)、きな粉(量)、納豆(1パック50g以上)、ソーセージ・ハンバーグなど玉ねぎ入りの加工肉

肉と魚そのものには基本的にFODMAPが含まれません。問題になるのは味付けと加工のほうです。ソーセージ・ミートボール・市販のハンバーグには玉ねぎや小麦のつなぎが入っていることが多く、原材料表示を見る習慣が役に立ちます。

⑤ 乳製品と代替品

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
乳糖ゼロ(ラクトースフリー)牛乳、ハードチーズ(チェダー、パルメザン、ゴーダ)、カマンベール、バター、アーモンドミルク(無糖)、ライスミルク 牛乳、ヨーグルト、生クリーム、アイスクリーム、練乳、リコッタ・カッテージ・クリームチーズ、カフェオレ(牛乳量による)

乳糖不耐を伴う人は日本人に多く、ここが主犯であるケースは珍しくありません。牛乳をやめるだけで張りが軽くなるなら、話は早いということです。なおチーズは熟成が進んだ硬いものほど乳糖が少ないため、チーズ全般を避ける必要はありません。

⑥ 調味料・だし・加工食品

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
塩、こしょう、酢、しょうゆ(大さじ2程度まで)、みそ(大さじ1程度まで)、砂糖(上白糖・グラニュー糖)、メープルシロップ、マヨネーズ(少量)、オリーブオイル、ごま油、にんにく風味油、かつおだし・昆布だし(無添加のもの) はちみつ、固形コンソメ・鶏がらスープの素、市販のめんつゆ(玉ねぎ・果糖入りのもの)、カレールー、市販ドレッシング、オイスターソース(量)、ケチャップ(量)、果糖ぶどう糖液糖を含む調味料全般

⑦ 飲み物・お酒

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
水、緑茶、ほうじ茶、麦茶、紅茶(濃く出しすぎない)、ブラックコーヒー(1〜2杯)、日本酒(少量)、ウイスキー、焼酎、ジン、ウォッカ、辛口ワイン(グラス1杯) りんごジュース・果汁飲料、ウーロン茶、カモミールティー、ラム酒、甘いカクテル、乳飲料、豆乳(大豆をまるごと使ったタイプ)

ビールについては「グラス1杯程度ならFODMAPとしては低い」とされますが、炭酸そのものと、アルコールによる腸への刺激は別問題です。IBSの症状がある期間は、FODMAPの分類に関係なく飲酒量を抑えたほうが結果は安定します。

⑧ お菓子・間食

低FODMAP(食べやすい)高FODMAP(控えめに)
せんべい・おかき(プレーン)、ポテトチップス(プレーン・少量)、ダークチョコレート(30g程度まで)、素焼きアーモンド(10粒まで)、くるみ、栗、ポップコーン(少量) シュガーレスガム・のど飴(ソルビトール、キシリトール、マルチトール入り)、クッキー・ケーキ類(小麦)、あんこ入りの和菓子、ミルクチョコレート(量)、カシューナッツ、ピスタチオ、ドライフルーツ

見落とされがちなのがシュガーレス製品です。「糖質オフだから安心」とガムやのど飴を1日に何個も口にしている場合、それだけでポリオールの摂取量がかなりの水準に達します。会議前の習慣になっている方は、まずここを疑ってみてください。

日本の食生活でつまずく5つの落とし穴

海外発のリストをそのまま使うと、日本の食卓では実行不可能に見えてしまう場面がいくつかあります。実際にはどれも回避策があります。

落とし穴① 玉ねぎとにんにくは「抜く」のではなく「香りだけ移す」

玉ねぎとにんにくは和洋中すべての土台であり、完全に排除しようとすると外食が壊滅します。ただし救いがあります。これらに含まれるフルクタンは水に溶けますが、油には溶けません。

キッチンのコンロで、油で炒めたにんにくのスライスを菜箸でフライパンから取り出す40代の日本人男性

つまり、油でにんにくや玉ねぎを炒めて香りを移し、固形部分だけを取り除けば、風味を残したままフルクタンの摂取をかなり抑えられます。市販の「ガーリックオイル」(にんにく片が入っていないもの)も同じ理屈で使えます。逆にスープ・煮込み・カレー・味噌汁のように水に溶かし込む料理は避けられません。玉ねぎを取り除いてもスープ側に出ているためです。

青ねぎの緑色の部分は低FODMAPなので、薬味としてそのまま使えます。白い部分だけを避ければよく、ねぎを丸ごと諦める必要はありません。

落とし穴② 小麦は「ゼロか100か」ではなく量の問題

小麦を避けるというと、グルテンフリー生活を想像して身構える方が多いのですが、低FODMAP食で問題にしているのはグルテン(たんぱく質)ではなくフルクタン(糖)です。醤油に含まれる程度の小麦は問題になりませんし、少量のパンでいきなり症状が出るわけでもありません。

実務的には、1日のうち小麦が主食になる回数を減らすのが現実的です。朝はパン、昼はうどん、夜はパスタ──という日をやめて、昼を白米の定食に替えるだけでも量は大きく変わります。

落とし穴③ 納豆・豆乳は「量」と「原材料表示」で分かれる

大豆製品は判断が細かく分かれます。豆腐(特に木綿)は製造過程でFODMAPが水にさらされて落ちるため低FODMAPですが、大豆をまるごと使う納豆や豆乳は違います。

  • 納豆:1パック(40〜50g)程度なら許容範囲とされることが多いものの、それを超えると高FODMAP域に入ります。「体にいいから朝晩2パック」は避けたほうが無難です。
  • 豆乳:原材料表示を見てください。「大豆」と書かれたまるごと搾るタイプは高FODMAP、「大豆たんぱく」から作られたタイプは低FODMAPです。パッケージの見た目では区別できません。
  • 枝豆:居酒屋の定番ですが、ガラクトオリゴ糖が多く高FODMAPです。

落とし穴④ りんご・はちみつという「健康の象徴」

りんごとはちみつは、いずれも果糖が多い高FODMAP食品です。「風邪気味だからはちみつ入りのホットレモン」「間食をりんごに替えた」といった善意の習慣が症状を長引かせているケースは、実際によく見かけます。

果物を摂りたい場合は、みかん・オレンジ・キウイ・バナナ・いちご・ぶどうに置き換えてください。「果物なら何でも同じ」ではないという点だけ覚えておけば十分です。

落とし穴⑤ めんつゆ・カレールー・コンソメの「隠れ玉ねぎ」

自炊に切り替えたのに改善しない、というときの犯人がここにいます。市販の複合調味料には、ほぼ例外なく玉ねぎ由来の成分か果糖ぶどう糖液糖が入っています。めんつゆ、カレールー、シチューのルー、鍋の素、焼肉のタレ、ドレッシング、コンソメ、鶏がらスープの素──いずれも該当します。

対策はシンプルで、除去期のあいだはかつおだし・昆布だし・塩・しょうゆ・みそ・酢・油という単純な調味料で組み立てることです。手間は増えますが、期間は数週間に限られます。

3週間で試す|除去→再導入→維持の進め方

低FODMAP食で最も誤解されているのが、「高FODMAP食品を一生避ける食事法」だと思われている点です。実際は3段階の構造を持つ短期プログラムで、最後は元の食生活にかなり戻します。

ステップ期間やること目的
① 除去期 2〜3週間(最長6週間) 高FODMAP食品を一通り控える 症状が下がるかどうかを確かめる
② 再導入期 6〜8週間 1グループずつ戻して反応を見る 自分の犯人を特定する
③ 維持期 以降ずっと 反応した食品だけ量を管理する 制限を最小限にして生活を戻す

第1〜3週:除去期のやり方と、記録の付け方

除去期は「完璧にやること」よりも「変化を判定できる状態をつくること」が目的です。8割の実行度でも、症状が明確に下がれば判定はできます。

この3週間で必ずやってほしいのが記録です。手帳でもスマホのメモでも構いません。毎日、次の4つだけ書きます。

  1. 食べたものと、食べた時刻(メニュー名でよい。「12:20 鮭定食」で十分)
  2. 症状が出た時刻と、10点満点の点数(痛み・張り・便通の総合点)
  3. 排便の回数と形(硬い/普通/泥状/水様の4段階)
  4. その日のストレスの大きさを10点満点で採点
夜のダイニングテーブルで、緑茶のマグカップを横に置きノートにその日の食事内容を書き留める40代の日本人男性

時刻を書くのが最大のコツです。食べたものが症状として出るまでには時間差があり、FODMAPが大腸に届いて発酵し始めるのはおおむね摂取から4〜8時間後です。つまり「午後の会議で腹が張る」原因は昼食ではなく、その日の朝食や前夜の食事にあることが珍しくありません。時刻を書かずにメニューだけ並べると、この時間差のせいで犯人を取り違えます。

4つ目を入れるのも重要です。ストレスの点数が高い日に症状も悪いなら、犯人は食事よりも自律神経側にいる可能性が高くなります。その見極めが後の判断を大きく変えます。ストレスと腸の関係については自律神経とは?乱れる原因と整える方法も参考にしてください。

除去期の1日の食事例(40代男性・オフィス勤務) :白米ごはん、卵焼き、焼き鮭、豆腐とわかめの味噌汁(だしは無添加のもの)
:外食なら焼き魚定食か刺身定食。コンビニなら鮭おにぎり+サラダチキン(プレーン)+ゆで卵+緑茶
間食:素焼きアーモンド10粒、またはせんべい1〜2枚
:白米、鶏もも肉のソテー(にんにく風味油で焼き、にんにく片は除く)、にんじん・なす・ピーマンの炒め物、青ねぎの緑部分を薬味に

第4週以降:再導入テストの手順

除去期で症状が明らかに軽くなったら、次はどれが犯人かを絞り込みます。ここを飛ばして「調子がいいから除去期をずっと続ける」のが最もよくある失敗です。

再導入で試すグループは、次の5つです。FODMAPの「F(発酵性)」は総称なので、実際に分けてテストするのはO・D・M・Pの4種類ですが、Oのオリゴ糖はフルクタンとガラクトオリゴ糖で反応が分かれるため、実務上は別グループとして扱います。

グループテストに使う食品の例通常量の目安
① フルクタン(小麦系)食パン2枚
② フルクタン(野菜系)玉ねぎ1/4個を加熱して
③ ガラクトオリゴ糖納豆、または大豆の水煮納豆1パック
④ 乳糖牛乳コップ1杯(200ml)
⑤ 果糖/ポリオールはちみつ(果糖)、もも(ポリオール)はちみつ大さじ1、もも1/2個

手順は次のとおりです。1回のテストで扱うグループはひとつだけにしてください。

  1. ひとつのグループの代表食品を選ぶ(例:乳糖なら牛乳、フルクタンなら小麦のパン、ポリオールならもも)
  2. 1日目は少量、2日目は中量、3日目は通常量と3日かけて増やす
  3. 症状が出たらその時点で中止し、3日間は元の除去食に戻して腸を落ち着かせる
  4. 症状が出なければ、そのグループは「問題なし」として日常に戻してよい
  5. 次のグループへ進む。5グループすべてで6〜8週間かかります

この工程を経ると、多くの人は「自分がひっかかるのは1〜2グループだけ」と気づきます。全部を避けていた期間が長かった人ほど、この発見の意味は大きいはずです。

維持期:自分の「量の上限」を決める

最終的に目指すのは、犯人と特定されたグループについてだけ「どこまでなら平気か」という自分の上限を把握して運用することです。玉ねぎがだめでも、油で香りを移す方法なら食べられる。牛乳はだめでもチーズは平気。パンは1食なら大丈夫だが、3食連続はきつい。──こうした個別の線引きができれば、外食も出張もかなり自由になります。

除去期を6週間以上続けないこと 高FODMAP食品の多くは、腸内の有用な細菌を育てる成分でもあります。長期間の全面除去は腸内細菌のバランスに影響する可能性が指摘されており、栄養の偏りにもつながります。「調子がいいから」と除去期を漫然と延長するのは、この食事法の本来の使い方ではありません。判定がついたら必ず再導入へ進んでください。

居酒屋・ラーメン・コンビニ・出張をどう乗り切るか

ここが、海外由来のリストが答えてくれない部分です。40・50代の男性にとって食事は、しばしば自分だけで決められないものになります。

居酒屋・会食

結論から言うと、居酒屋は意外に戦いやすい場所です。頼めるものが明確にあります。

選びやすい避けたい
刺身・寿司(ネタ中心)、焼き鳥()、焼き魚、だし巻き卵、冷奴、お新香、枝豆以外の箸休め、揚げ出し豆腐(衣は片栗粉のもの)、ポテトフライ(少量) 枝豆、玉ねぎ入りのサラダ、焼き鳥のタレ(果糖・にんにく)、餃子、唐揚げ(衣+にんにく)、〆のラーメン・お茶漬け以外の麺類、甘いサワー
居酒屋のテーブルで刺身・塩の焼き鳥・焼き魚とハイボールを前に向かい合って話す40代の日本人男性2人

飲み物はハイボール・焼酎の水割り・日本酒少量が比較的無難です。乾杯のビール1杯までは許容範囲としつつ、そのあとを蒸留酒に切り替えるのが現実的な運用でしょう。

ラーメンと定食──昼食の分かれ道

ラーメンは低FODMAP食において最難関の食べ物です。小麦の麺・玉ねぎとにんにくのスープ・にんにくのトッピングという三重構造になっており、部分的な回避が効きません。除去期のあいだは、ここは素直に見送ってください。

代わりに強いのが和定食です。焼き魚定食、刺身定食、生姜焼き定食(タレの量に注意)、親子丼。白米が主食で、主菜が肉か魚というだけで条件を満たします。牛丼・カレー・ハンバーグは玉ねぎが構造に組み込まれているため、この期間は外すのが安全です。

定食に付いてくる小鉢をどう扱うか 定食は、選べない小鉢がセットになっています。実務的な判断は次のとおりです。
そのまま食べてよい:お新香(大根・きゅうり・白菜)、ひじきの煮物(少量)、卵豆腐、冷奴
残すか半分にする:味噌汁(玉ねぎ・長ねぎの白い部分が入っている場合は具を残し、汁も半分に。わかめ・豆腐だけなら問題なし)、ポテトサラダ(玉ねぎ入りが多い)、切り干し大根、きんぴらごぼう
全部を完璧に避ける必要はありません。小鉢1品を半分残す程度の調整でも、除去期の判定は十分に成立します。神経質になりすぎて外食そのものを避けると、3週間続けられなくなるほうが問題です。

コンビニで買えるもの

移動の多い方にとって、実質的にここが主戦場になります。以下は多くの店舗で手に入る組み合わせです。

コンビニの冷蔵棚の前で、鮭のおにぎりとプレーン味のサラダチキンを見比べる40代のビジネスマン
  • 主食:おにぎり(鮭・梅・昆布・たらこ)。ツナマヨ・炒飯系・赤飯は避ける
  • たんぱく質:サラダチキン(プレーン・ハーブ味/ガーリック味は避ける)、ゆで卵、焼き魚パック、冷奴
  • 間食:素焼きアーモンド(小袋の半分程度)、せんべい、バナナ
  • 飲み物:水、緑茶、麦茶、ブラックコーヒー。ウーロン茶と乳酸菌飲料は避ける

意外な盲点がサラダです。カット野菜には玉ねぎ・ごぼう・コーンが入っていることが多く、さらに付属ドレッシングが玉ねぎと果糖の塊であることがほとんどです。「サラダなら安心」は成立しません。

出張・移動日

出張は「トイレが読めない」という点でIBSの人には最も負荷の高い場面です。移動日は挑戦しないのが原則で、前日から低FODMAPを徹底し、当日の朝は食べ慣れたものだけにします。

駅弁を選ぶなら、幕の内のように品数が多いものより鮭弁当・焼肉弁当(タレ少なめ)のように構成が単純なもののほうが読みやすくなります。新幹線や飛行機の前にコーヒーを飲む習慣がある方は、その日だけ緑茶に替えるだけでも違いが出ます。

ガス・張りが主症状の方へ おならや腹部の張りが中心の症状(いわゆるガス型)の場合は、FODMAPの調整に加えて「飲み込む空気の量」を減らす工夫が同じくらい効きます。早食い・炭酸飲料・ガム・喫煙が主な原因です。詳しくは過敏性腸症候群ガス型とは?おならと張りが止まらない40・50代男性へをご覧ください。

やってはいけない3つのこと

① 検査を受けないまま食事療法から始める

いちばん危険なのがこれです。体重が減っている、血便が出た、発熱がある、夜中に痛みで目が覚める、50歳以上で初めて症状が出た、家族に大腸がんの人がいる──これらのいずれかに当てはまる場合、まず必要なのは食事の見直しではなく検査です。

低FODMAP食で症状がある程度おさまってしまうと、背後にある別の病気の発見が遅れることがあります。順序を守ってください。

② 除去期を延々と続ける

前述のとおりですが、繰り返す価値があります。除去期は検査であって生活ではありません。「調子がいいから」と半年、1年と続けている方が実際にいますが、それは制限が必要なかった食品まで一生避け続けている状態です。再導入は面倒ですが、そこまでやって初めてこの食事法は完成します。

③ 食べられるものを極端に狭める

「これも高FODMAPらしい」と情報を集めるうちに、食べられるものが白米と鶏肉だけになってしまう人がいます。食事は栄養を摂る行為であり、制限そのものが目的ではありません。

特に40・50代男性の場合、たんぱく質・カルシウム・食物繊維が不足すると、筋肉量の低下や別の不調に直結します。除去期であっても、肉・魚・卵・豆腐・低FODMAPの野菜と果物を組み合わせれば必要な栄養は確保できます。そこが崩れそうなら、自己流を続けず管理栄養士に相談してください。

病院・管理栄養士に相談すべきタイミング

次の3つのいずれかに当てはまるときは、自力での調整をいったん止めて専門家を挟むほうが早く進みます。

状況相談先期待できること
まだ診断を受けていない/警告症状がある 消化器内科 大腸内視鏡・血液検査などで他の病気を除外し、IBSの診断を確定する
3週間試したが変化がない 消化器内科 薬による対処や、ストレス側からのアプローチへの切り替え
食べられるものが減って体重が落ちてきた 管理栄養士(栄養相談外来) 栄養バランスを保ったままの献立設計、再導入の手順の個別調整

なお、低FODMAP食の指導に慣れている管理栄養士はまだ多くありません。受診先を探す際は、消化器内科に栄養相談外来が併設されているかを確認すると見つけやすくなります。お腹ではなく胃の不調が中心の方は機能性ディスペプシアとは?「胃カメラ異常なし」の胃の不調もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q 低FODMAP食は何日くらいで効果を感じますか?

A.変化を感じる方の多くは1〜2週間程度で違いに気づきます。判定の目安としては3週間を見てください。3週間続けても症状の点数がほとんど動かない場合、原因はFODMAP以外にある可能性が高くなります。その場合は除去を延長せず、消化器内科で別の対処を検討したほうが早く進みます。

Q 白米は本当に食べていいのですか?玄米のほうが体にいいと思っていました

A.白米は低FODMAPで、この食事法においては主食の第一選択になります。玄米も適量なら低FODMAPに分類されますが、食物繊維が多いぶん腸が敏感な時期には刺激になることがあります。血糖値の観点で玄米を選んでいた方は、除去期のあいだだけ白米に戻し、再導入期に量を確かめながら戻していくのが現実的です。

Q 玉ねぎとにんにくを完全に避けるのは無理です。どうすればいいですか?

A.これらに含まれるフルクタンは水に溶けますが油には溶けません。油で炒めて香りを移し、固形部分を取り除けば、風味を残したまま摂取量を抑えられます。市販のガーリックオイル(にんにく片の入っていないもの)も同じ理屈で使えます。ただしスープやカレーのように水で煮出す料理では成分がスープ側に出てしまうため、この方法は使えません。

Q ビールは飲んでも大丈夫でしょうか

A.FODMAPの分類上は、グラス1杯程度のビールは低FODMAPとされています。ただし炭酸によるガスと、アルコールそのものの腸への刺激はFODMAPとは別の問題です。症状が続いている時期は、乾杯の1杯にとどめて、そのあとはハイボールや焼酎の水割りに切り替えるのが無難です。

Q ヨーグルトや乳酸菌飲料は腸にいいのでは?

A.一般論としては腸内環境にとって有用な食品ですが、乳糖を含むため高FODMAPに分類されます。乳糖の分解が苦手な体質の方では、腸によかれと思って続けている習慣が張りや下痢の原因になっていることがあります。除去期はいったん止めて、再導入期に反応を確かめてみてください。問題がなければ戻して構いません。

Q 家族と食事が別になってしまいます。何かいい方法はありますか?

A.全員分を低FODMAPで作り、玉ねぎやにんにくは「あとから足せる薬味」として別皿にするのが現実的です。カレーやシチューのように最初から溶け込ませる料理を、その期間だけ焼き物・炒め物・鍋(だしベース)に寄せると調整しやすくなります。除去期は最長でも6週間なので、家族に事情を伝えて期間限定の協力を頼むほうが、こっそり続けるより結局うまくいきます。

Q サプリメントや整腸剤と併用してもいいですか?

A.併用そのものは問題になりませんが、判定という観点では注意が必要です。同時に複数のことを始めると、効いたのが食事なのかサプリなのか区別できなくなります。可能であれば除去期のあいだは条件を固定し、変えるのは食事だけにしてください。なお、オリゴ糖やイヌリンを配合したサプリメントはFODMAPそのものなので、この期間は外すのが妥当です。また見落とされがちなのがプロテインです。人工甘味料としてマルチトール・ソルビトール・エリスリトールなどの糖アルコール(ポリオール)が使われている製品が多く、さらにホエイプロテインには乳糖が残っています。筋トレを続けている方は、原材料表示を確認し、除去期は乳糖の少ないWPI(アイソレート)や糖アルコール不使用の製品に替えるか、いったん中断して判定に影響しないようにしてください。処方薬を服用中の場合は自己判断で中止せず、必ず主治医に相談してください。

まとめ:食べられないものを数えるより、食べられるものを増やす

低FODMAP食は、禁止リストを増やしていく食事法ではありません。数週間かけて自分の腸が反応する糖を特定し、それ以外は堂々と食べられるようにするための手続きです。ゴールは制限ではなく、自由の回復にあります。

  • 正体:FODMAPは小腸で吸収されにくい4種類の糖。腸に水を引き込み、大腸で一気に発酵してガスになる
  • 主食は白米が安全圏:日本人にとって最大の救い。玄米や全粒粉に切り替えていた人は、この期間だけ戻す
  • 玉ねぎ・にんにくは油で香りを移す:フルクタンは水に溶けるが油には溶けない。固形を除けば風味は残せる
  • 3週間で判定:除去期は最長6週間。変化がなければ犯人はFODMAPではない。それも有益な情報
  • 再導入まで必ずやる:多くの人がひっかかるのは5グループ中1〜2つだけ。全部を避け続ける必要はない
  • 先に検査:体重減少・血便・発熱・夜間の痛みがあるときは、食事より受診が先

会議の途中で席を立つ心配をしながら働くのは、それだけで消耗します。何を食べた日に調子が悪くなるのか。その一点がわかるだけで、選べる選択肢は驚くほど増えます。まずは今日から3日間、食べたものと症状の点数を書き出すところから始めてみてください。