「健診でコレステロールが高いと言われたけど、別に何ともないから大丈夫だろう」──こう思っている40代男性は、決して少なくありません。脂質異常症(旧称:高脂血症)は、自覚症状がほぼない病気です。痛みも、だるさも、見た目の変化もない。だからこそ放置されやすく、気づいたときには血管ダメージが深刻なレベルまで進行していることがあります。

この記事では、脂質異常症に症状がない理由、身体にまれに現れるサイン、放置した場合の合併症リスク、そして受診の目安まで、保健師の立場からわかりやすく解説します。

3つの数字のどれが引っかかったかで、話が変わります

「脂質異常症」と一括りにされますが、健診で引っかかる数字は3つあり、どれが高い(低い)かで意味も対処も違います。まず、結果用紙のどこに印がついているかを確認してください。

項目該当する値何を意味するか効くこと
LDLコレステロール140mg/dL以上血管の壁にたまる材料が多い。動脈硬化に最も直結する飽和脂肪酸を減らす/薬が効きやすい
中性脂肪(TG)150mg/dL以上糖とアルコールの過剰を映す。生活の影響が大きいお酒と糖質。数週間で動く
HDLコレステロール40mg/dL未満回収する側が少ない。運動不足・喫煙・内臓脂肪と関連運動と禁煙。食事では上がりにくい

ここを分けて考える意味は大きく2つあります。

ひとつは、変わりやすさが違うこと。中性脂肪は生活の影響を強く受け、禁酒と糖質の見直しで2〜4週間で下がることも珍しくありません。一方でLDLは食事だけで動く幅が小さく、体質(遺伝)の寄与が大きい。「同じように頑張ったのに、片方しか下がらない」のは当然のことで、努力不足ではありません。

もうひとつは、危険度の見え方が違うことです。動脈硬化への寄与が最もはっきりしているのはLDLで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクは主にここで決まります。中性脂肪も高すぎれば問題になりますが(とくに500mg/dL以上では膵炎のリスク)、150〜300程度なら、まず生活の見直しから始めるのが一般的です。

LDLだけが高く、体型も生活も問題ない場合:食事や運動と関係なくLDLが高い(180mg/dL以上が続く、家族に若くして心筋梗塞を起こした人がいる、アキレス腱が厚い)という条件が重なる場合は、体質的にLDLが高くなる家族性高コレステロール血症の可能性があります。日本人の約300人に1人と、決して珍しくありません(薬を飲んでもLDLが下がらない場合)。

数値ごとの下げ方は、それぞれ別の記事にまとめています。LDLが高い方LDLコレステロールを下げる方法|効果が大きい順中性脂肪が高い方中性脂肪を下げる方法|減らすのは脂ではなく、糖と酒ですそもそも数字の読み方から確認したい方LDLコレステロールの基準値とは?をご覧ください。

そのうえで、この記事では「症状がないのに、なぜ放っておけないのか」を扱います。ここが腑に落ちないと、どの数字であれ続きません。

脂質異常症はなぜ「症状がない」のか

脂質異常症を正しく理解するうえで、まず知っておきたいのが「なぜ症状が出にくいのか」という理由です。

コレステロールや中性脂肪は血液中に溶けていて痛みを出さない

コレステロールや中性脂肪は、血液中にリポたんぱくという粒子に包まれた状態で存在しています。これらが増えても、神経を刺激したり、炎症を起こしたりするわけではありません。尿酸値が高くなると関節に結晶が析出して激痛(痛風発作)を引き起こすのとは、まったく異なるメカニズムです。

血液中のコレステロールや中性脂肪は「静かに増えていく」だけ。そのため、数値がいくら高くなっても、本人はほとんど気づけません。これが脂質異常症の最大の特徴であり、難しさでもあります。

自覚症状がないまま10〜20年かけて血管が傷む

問題は、症状がないからといって身体への影響がないわけではない、という点です。LDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、血管の壁の内側に少しずつ脂肪が沈着していきます。この状態を動脈硬化といいます。

動脈硬化は一日二日で進むものではなく、10年・20年という長い時間をかけて静かに進行します。そして血管が十分に詰まったとき、初めて心筋梗塞や脳卒中として「症状」が現れます。つまり、症状が出たときにはすでに手遅れになっているケースが少なくないのです。

「症状がない=安全」ではない 脂質異常症の自覚症状のなさは、病気の軽さを示しているわけではありません。むしろ「気づかないまま進行する」という点で、ほかの生活習慣病よりも注意が必要です。
明るい診察室でタブレットを見ながら医師から血管についての説明を受ける40代日本人男性

まれに現れる身体のサイン──気づけたら早期対処のチャンス

脂質異常症の多くは自覚症状がありませんが、ごく一部のケースでは身体に外から確認できるサインが現れることがあります。特に、遺伝的要因でコレステロールが著しく高くなる「家族性高コレステロール血症(FH)」では、こうしたサインが比較的若い年齢から現れやすいとされています。

黄色腫(おうしょくしゅ)──皮膚に脂肪が沈着するコブ

黄色腫とは、皮膚や皮下組織にコレステロールが沈着してできる、黄色みがかったコブのことです。まぶたの内側(眼瞼黄色腫)、肘や膝の周囲、手の甲、臀部などに現れやすいとされています。

まぶたに黄色っぽい小さな隆起ができていることに気づいた場合は、脂質異常症のサインかもしれません。ただし、黄色腫はコレステロール値が非常に高い人に多く見られ、一般的な脂質異常症では必ずしも現れるわけではありません。

角膜弓(かくまくきゅう)──目の縁に現れる白い輪

角膜弓とは、黒目の縁に白いまたは灰色の輪が現れる現象です。コレステロールなどの脂肪が角膜周辺に沈着することで起こります。50歳以上では加齢によって現れることも多いのですが、40代以下の比較的若い年齢で角膜弓が見られる場合は、家族性高コレステロール血症を疑うサインとして医師が注目します。

目を鏡で確認したとき、黒目の外側に白い縁取りのような輪があれば、一度眼科または内科での相談を検討してみてください。

アキレス腱の肥厚(ひこう)

アキレス腱にコレステロールが沈着して肥厚する「腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)」も、家族性高コレステロール血症の特徴的なサインです。健康な成人のアキレス腱の厚さは5〜6mm程度とされていますが、家族性高コレステロール血症では8mm以上に肥厚することがあります。

アキレス腱を指でつまんだとき、明らかに太く感じる、あるいは痛みや熱感はないが腫れているように見える場合は、内科での血液検査を受けてみることをおすすめします。

これらのサインがなくても安心しないで 黄色腫・角膜弓・アキレス腱肥厚はあくまでサインであり、「ない=正常」ではありません。これらが現れるのは主に遺伝性の高コレステロール血症で、一般的な脂質異常症では現れないことがほとんどです。症状の有無にかかわらず、健診数値が気になる場合は受診を検討してください。

症状がなくても放置してはいけない理由──合併症リスク

脂質異常症そのものには症状がほぼありません。しかし、放置することで引き起こされる合併症は、命に直結するものばかりです。

サーモン・ブロッコリー・アボカド・クルミ・オリーブオイルなどコレステロール改善に役立つ食材を並べたキッチンカウンター

動脈硬化の進行と心筋梗塞・脳卒中リスク

LDLコレステロールが高い状態が続くと、血管の内壁にコレステロールが蓄積し、「プラーク」と呼ばれる塊が形成されます。このプラークが破裂すると血栓(血のかたまり)が生じ、血管を塞いでしまいます。

  • 心臓の血管(冠動脈)が詰まると → 心筋梗塞
  • 脳の血管が詰まると → 脳梗塞
  • 脳の血管が破れると → 脳出血

これらは突然発症することが多く、場合によっては命を落とす、あるいは重篤な後遺症が残るリスクがあります。40代男性は仕事のストレスや不規則な生活が重なりやすく、知らない間に脂質異常症が進行しているケースが多く見られます。

実際に、日本動脈硬化学会のデータによると、日本人男性の心疾患死亡率は40代後半から急増し、50代の約3人に1人が何らかの脂質異常を抱えているとされています。「まだ若いから大丈夫」という感覚が、実は最も危険な思い込みです。

脂肪肝・急性膵炎(中性脂肪が高い場合)

脂質異常症の中でも、中性脂肪(トリグリセリド)が高い場合には、別の合併症リスクも高まります。

中性脂肪が過剰になると、肝臓に蓄積されて脂肪肝になります。脂肪肝は自覚症状がほとんどなく、放置するとNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)→肝硬変→肝がんへと進行するリスクがあります。

また、中性脂肪が非常に高い場合(1,000mg/dL以上)には急性膵炎を引き起こすことがあります。急性膵炎は、腹部の激しい痛みや嘔吐、発熱を伴う救急疾患で、重症化すると命に関わります。お酒をよく飲む40〜50代男性は中性脂肪が高くなりやすく、特に注意が必要です。

40代男性が特に注意すべき数値の目安

以下の数値に当てはまる場合は、放置リスクが高まります。健診結果と照らし合わせてみてください。

特に注意したい数値の目安
  • LDLコレステロール 140mg/dL以上:高LDLコレステロール血症。動脈硬化リスクが上昇
  • 中性脂肪 150mg/dL以上:高トリグリセリド血症。脂肪肝・膵炎リスク
  • HDLコレステロール 40mg/dL未満:低HDLコレステロール血症。善玉が少なく動脈硬化が進みやすい
  • non-HDLコレステロール 170mg/dL以上:LDL以外の悪玉脂質の総量が高い

特にLDLが180mg/dL以上、または中性脂肪が500mg/dL以上の場合は、速やかに医療機関での相談が必要です。

診断基準と受診タイミング──何科に行けばいいか

脂質異常症と診断される数値(LDL・HDL・中性脂肪の基準値)

日本動脈硬化学会の基準では、以下のいずれかに該当する場合に脂質異常症と診断されます。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
  • LDLコレステロール 140mg/dL以上 → 高LDLコレステロール血症
  • HDLコレステロール 40mg/dL未満 → 低HDLコレステロール血症
  • トリグリセリド(中性脂肪) 150mg/dL以上 → 高トリグリセリド血症
  • non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 → 高non-HDLコレステロール血症
※境界域(LDL 120〜139mg/dL、non-HDL 150〜169mg/dL)も経過観察が必要

健康診断の結果票でよく見かける「H」(High:高値)マークがついた項目に、上記の数値が関係しています。「H」がついていても放置している方は、ぜひこの機会に一度受診を検討してください。

何科を受診すればいいか

脂質異常症を相談するなら、まずは内科または循環器内科が一般的です。かかりつけ医がいれば、そこで相談するのが最もスムーズです。

  • 内科・一般内科:血液検査と生活習慣指導が中心。軽〜中等度の場合はここで十分対応できる
  • 循環器内科:すでに心臓・血管系の症状がある、または家族に心筋梗塞・脳卒中の既往がある場合に特に適している
  • 糖尿病・内分泌代謝内科:糖尿病や甲状腺疾患など、ほかの代謝異常を合わせて持っている場合

「どの科に行けばいいかわからない」という場合は、内科でまず相談するのが最善策です。必要に応じて専門科へ紹介してもらえます。

健診結果を受け取ったらまず確認すること

健診結果票を受け取ったら、以下の流れで確認してみてください。

  1. LDL・HDL・中性脂肪・non-HDLの4項目をチェックする
  2. いずれかに「H」または「要受診」「要精査」の判定がついている場合は、3か月以内に内科を受診する
  3. 「境界域(C判定)」であっても、複数の生活習慣病リスク(糖尿病・高血圧・肥満・喫煙)がある場合は早めに相談する
  4. 昨年より数値が悪化している、または3年連続で基準値を超えている場合も受診の目安
内科クリニックの待合室で問診票を記入する40代日本人男性

症状が出る前にできること──生活習慣の見直しと治療の選択肢

食事・運動・禁煙で数値が変わる人とそうでない人

脂質異常症の治療は、まず生活習慣の改善から始まります。特に食事と運動は、数値に大きく影響します。具体的な方法はLDLコレステロールを下げる方法|効果が大きい順に並べました中性脂肪を下げる方法にまとめています。

数値の読み方そのものはLDLコレステロールの基準値とは?で、薬を提案された場合脂質異常症の薬は一生飲み続けるの?スタチンの副作用とやめどきで扱っています。生活を変えても・薬を飲んでもLDLが下がらない場合は、体質的な要因が隠れていることがあります——家族性高コレステロール血症をご覧ください。

食事面でできること

  • 飽和脂肪酸(肉の脂身・バター・生クリームなど)を控える
  • トランス脂肪酸(マーガリン・ショートニング含む加工品)を避ける
  • 青魚(サバ・イワシ・サンマ)のDHA・EPAを積極的に摂る
  • 食物繊維(野菜・海藻・きのこ)を増やす
  • アルコールを適量に抑える(中性脂肪が高い場合は特に重要)

運動面でできること

  • 週150分以上の中強度有酸素運動(早歩き・水泳・自転車など)
  • HDLコレステロール(善玉)を増やすには、継続的な有酸素運動が最も効果的
  • 筋トレ(週2〜3回)と組み合わせると、内臓脂肪の減少につながり中性脂肪にも効果的

ただし、生活習慣の改善だけでは数値が改善しにくい場合もあります。特に遺伝的に高コレステロールになりやすい体質(家族性高コレステロール血症)の方は、いくら食事に気をつけても数値が下がらないことが多く、薬物療法が不可欠です。「食生活には気をつけているのに数値が下がらない」という方は、体質が関係している可能性を医師に相談してみてください。

薬(スタチンなど)はいつから始まるのか

脂質異常症の治療薬として最もよく使われるのが「スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)」です。肝臓でのコレステロール合成を抑え、LDLコレステロールを大幅に下げる効果があります。

薬物療法を開始する目安は、数値の高さだけでなく「心血管リスクの総合評価」によって決まります。具体的には次の要素を総合的に判断します。

  • LDLコレステロールの数値と、どれだけ生活習慣改善を試みたか
  • 年齢・性別・喫煙の有無
  • 糖尿病・高血圧・慢性腎臓病などの合併症の有無
  • 過去の心筋梗塞・脳卒中などの既往歴

一般的に、生活習慣改善を3〜6か月試みても数値が改善しない場合や、心血管リスクが高い場合(糖尿病合併・既往歴あり等)は、早期から薬物療法が検討されます。「薬を飲み続けなければいけないのか」と不安に思う方も多いですが、薬の有無にかかわらず生活習慣の改善は欠かせません。両者は代替ではなく、組み合わせるものです。

よく使われる脂質異常症治療薬の種類
  • スタチン系(ロスバスタチン・アトルバスタチンなど):LDLコレステロール低下に最も効果的
  • フィブラート系(フェノフィブラートなど):中性脂肪の低下に特に有効
  • エゼチミブ:腸からのコレステロール吸収を抑える。スタチンと併用することが多い
  • EPA製剤(イコサペント酸エチル):中性脂肪低下と心血管リスク低減に使われる

よくある質問(FAQ)

Q 脂質異常症と高脂血症は同じですか?

A.基本的には同じ概念を指しますが、名称が変わった背景があります。「高脂血症」はコレステロールや中性脂肪が高い状態を指していましたが、HDL(善玉)コレステロールが低い場合も問題であるため、2007年に「脂質異常症」という名称に改められました。健診票や病院では現在「脂質異常症」という表記が一般的です。

Q コレステロールが高くても症状がないのはなぜですか?

A.コレステロールは血液中にリポたんぱくという粒子に包まれた状態で存在しているため、増えても神経を刺激したり炎症を直接引き起こしたりしません。ダメージは血管の内壁に少しずつ蓄積されていく形で進み、10〜20年かけて動脈硬化として現れるため、本人は長期間気づけないのです。

Q 脂質異常症を放置するとどうなりますか?

A.動脈硬化が進行し、心筋梗塞・脳梗塞・脳出血などの重篤な心血管疾患リスクが高まります。中性脂肪が高い場合は脂肪肝(NASH進行)や急性膵炎のリスクもあります。これらは突然発症することが多く、命に直結します。自覚症状がないからといって安心せず、定期的な検査と必要に応じた治療が重要です。

Q 家族性高コレステロール血症とはどんな病気ですか?

A.遺伝的な原因でLDLコレステロールが著しく高くなる病気で、日本人の約200〜500人に1人がかかっているとされています。食事に気をつけていても数値が下がりにくく、黄色腫・角膜弓・アキレス腱肥厚といった身体サインが若い年齢から現れやすいのが特徴です。若年での心筋梗塞リスクが高いため、早期発見と薬物療法が非常に重要です。

まとめ:「症状がないから安心」は最も危険な思い込み

脂質異常症は、痛みも疲労感も見た目の変化もほとんどない病気です。だからこそ、健診で指摘されても後回しにしてしまいがちです。しかし、自覚症状がないまま10〜20年かけて血管を蝕み、突然の心筋梗塞・脳卒中として現れるリスクがあります。

  • 症状がない理由:コレステロール・中性脂肪は血液中に溶けて存在し、神経や炎症に直接作用しないため
  • まれに現れるサイン:黄色腫・角膜弓・アキレス腱肥厚(特に家族性高コレステロール血症で)
  • 放置の最大リスク:動脈硬化→心筋梗塞・脳卒中。中性脂肪高値なら脂肪肝・急性膵炎も
  • 受診の目安:健診でLDL 140以上・中性脂肪 150以上・HDL 40未満のいずれかがあれば内科へ

健診結果に「H」マークがついていたら、まず内科に相談することが最初の一歩です。自分の血管の状態を知り、今できることから始めていきましょう。